アグロフォレストリーが切り拓くチャウドゥクの未来。ベトナム平均の3倍の収穫量と、実験農園(OCA Farm)が描く自動化への挑戦

シンチャオ♪

私たちがベトナム・バリア=ブンタウ省チャウドゥクの大地でオーガニックカカオの木々と向き合っているとき、農業という営みが持つ「歴史の教訓」と「未来への責任」の重さを日々強く感じます。

世界のカカオ産業の歴史を振り返ったとき、決して忘れてはならない悲劇があります。かつて世界有数のカカオ生産国であったブラジルでは、広大な土地に同じ木だけを植える単一栽培(モノカルチャー)と過剰な化学肥料・農薬に依存した慣行栽培が続けられた結果、突如として猛威を振るった病害虫(魔女ほうき病など)によって、広大なカカオ産地が文字通り壊滅的な打撃を受けました。自然の多様性を無視したシステムは、いつの時代も脆さと隣り合わせなのです。

この危機感を乗り越えるための羅針盤となったのが、ブラジルのトメアスという地域で日系移民の方々が先駆けて切り拓いた「アグロフォレストリー(森林農法)」という素晴らしい思想でした。今回は、私たちがチャウドゥクの大地で実践しているアグロフォレストリーのリアルな実態と、日本の農学の常識を覆した収穫の科学、そして未来へ向けた実験農園の挑戦についてお話ししたいと思います。

「オマエは嘘つきだ」と言われた壁を越えて:ベトナム平均の3倍の収穫量を生む循環

私たちがチャウドゥクの農家さんたちと共に、農薬や化学肥料を一切使わない完全なオーガニック栽培(循環型農業)へと舵を切った当初、日本の大学の農学部の偉い先生方からは「そんなやり方では絶対に育たない」「オマエは嘘つきだ、信用に値しない」と厳しく批判されたこともありました。科学的な効率を重んじる現代の慣行農法において、化学肥料を断つことは「収量の激減」を意味すると信じられていたからです。

しかし、現実はどうだったでしょうか。
ベトナムの平均的なカカオ収穫量と比較して、私たちの循環型オーガニック栽培を実践するOCAの農家さんたちは、なんと約3倍もの収穫量を叩き出しています。「そんなこと有り得ない」と思われるかもしれませんが、現地を訪れた農家さんたちが口を揃えて笑顔で語ってくれるのがその証拠です。

移行期には一時的な収量の低下という試練もありました。しかし、土壌の微生物層が豊かに蘇り、自然の生態系が完璧なバランスを取り戻した今、農家さんたちの作業量はむしろ劇的に減り、収量は安定して増え続けています。その生態系の要となっているのが、チャウドゥクの農園で縦横無尽に活躍してくれる小さな守り神たちです。

害虫駆除の立役者:「ツムギアリ」と生態系ピラミッドの科学

農業生態学や害虫防除の論文データでも示されているように、アグロフォレストリーの環境下では、多様な天敵生物が自然のバランスを保ちます。私たちの農園でカカオの受粉や病害虫の駆除に大活躍している主役の一つが、熱帯の森林に生息する「ツムギアリ(学名:Oecophylla smaragdina)」です。

樹上に美しい巣を作るこのツムギアリは、カカオの木を狙う害虫たちを勇敢に捕食し、農薬に頼ることなく農園の健康を守る「生物学的防除(バイオロジカル・コントロール)」の強力な担い手となっています。化学の力で無理やり害虫を殺すのではなく、蟻をはじめとする多様な生き物たちが棲みやすい環境をデザインする。これこそが、自然の免疫力を最大限に引き出すオーガニック農業の科学です。

カカオと多彩な果実が織りなす「雨季と乾季の経済循環」

さらに、チャウドゥクのアグロフォレストリーの大きな強みは、カカオの木だけでなく、地域の気候風土に適した多様な果実や樹木を巧みに「混植(コンパニオンプランティング)」している点にあります。

農家さんによってその組み合わせは様々ですが、農園にはアボカド、ココナッツ、ドリアン、ザボン、マンゴー、バナナ、胡椒(ペッパー)、カシューナッツなどが豊かに共生しています。

ベトナムこの地のカカオの収穫は主に乾季に集中しますが(もちろん雨季を含めて年間を通じて収穫はあります)、カカオ以外の多くの果実たちは雨季のシーズンに次々と旬を迎え、見事な収穫期を迎えます。結果として、農家さんたちはカカオ以外の果実からも安定した収入を得ることができ、「年間を通じて途切れることなく実りが得られる」と大変な喜びの声を上げてくれています。

さらに、私たちを最初から信じ、支えて下さっている日本の熱心な農学部の先生からは、「ベトナムの土壌とこのアグロフォレストリーの基盤に、さらなる日本の先進的な栽培管理技術を適用していけば、収量はまだまだ引き上げられる余地がある」という心強いお墨付きもいただいています。

未来を見据えて:実験農園(OCA Farm)が描く自動化への挑戦

しかし、私たちが直面している現実から目を背けることはできません。日本と同様に、ベトナムの農村でも深刻な「担い手不足」と「農家さんの高齢化」が進んでおり、親世代の苦労を見て育った子供たちがそのまま農家を継ぐことは当たり前ではなくなっています。

今後の気候変動という不確実性の中でも、ベトナムでカカオ栽培を安定して継続し、さらに生産規模を拡大していくためには、「機械化」と「IT化」の導入が不可欠です。

この課題を解決するため、私たちは現在、わずか1ha規模の「実験農園(OCA Farm)」を自社で立ち上げ、数年がかりで実証実験を行っていく計画を進めています。どうすれば作業の省力化と高効率な栽培を両立できるのか――現在、農園の設計やスマート農業の導入に向けた議論を何度も繰り返している真っ最中です。

大地と共に歩む、持続可能な農業の未来

ブラジルの歴史が教えてくれた教訓を胸に、ベトナム・チャウドゥクの大地で試行錯誤を重ねながら精度を高めてきた私たちのプレアグロフォレストリー。そして、未来の担い手不足を見据えて動き出した実験農園の挑戦。

論文データや学問の知見、そして現場の農家さんたちの笑顔と汗が重なり合う場所から、本物のオーガニックの未来を切り拓くこと。私たちの挑戦の足跡を、ぜひこれからも見守っていてください。


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